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東京高等裁判所 昭和56年(ネ)347号 判決

控訴人(被告) 日本ウーマン・パワー株式会社

被控訴人(原告) マンパワー・ジヤパン株式会社

原審 東京地方昭和五三年(ワ)第三三〇三号(昭和五六年一月三〇日判決、一三巻一号六頁参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一双方の求めた裁判

一  控訴人は、

「原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

との判決を求めた。

二  被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

第二双方の主張及び証拠関係

当事者双方の主張事実及び証拠の関係は、次のとおり追加するほか、原判決事実欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  控訴人の主張

被控訴人の本訴請求は権利の濫用である。

(一)  被控訴人はその主張するところによれば、全国に多くの支店を設け、五〇〇〇人以上の従業員を擁していた。これに対し控訴人は東京近辺及び大阪市の一部のみを営業の地域とし、三〇〇名位の従業員で営業している程度の会社である。このような営業規模からみても、控訴人が「日本ウーマン・パワー株式会社」なる商号を使用して営業することによつて、被控訴人と混同され、被控訴人の営業に損害を与えた事実のないことは明らかであり、又将来与える虞もない。

このような状況の下での被控訴人の本訴請求は権利の濫用であり許さるべきではない。

(二)  また、被控訴人の親会社は、日本の職業安定所のような役所のないアメリカで職業紹介全般を業務としているもので、被控訴人が日本で行なつている事務処理業は、アメリカでは問題のない営業であるが、日本では職業安定法第四四条(労働者供給事業の禁止)違反のおそれがある営業であり、また、雇傭関係がないため、給与、諸手当、社会保険等で働く人に不利となることが考えられ、労働省もその必要性を一面において認めながらも、明確な許可にまで至つていないのである。

控訴人においては、派遣従業員の待遇を、一般被傭者のそれに近づける努力をし、交通費、健康保険、雇用保険、厚生年金の運用などを実現し、これらの努力の上に、日本経済新聞紙上への企業広告の掲載をはじめて実現したりしたのであるが、なお、現在の時点では職業安定法第四四条違反の事実は残つている。

このような状況の下で、確かに控訴人も右違反の事業を行なつているとは言え、同様の違反事業を行なつているものが、その違反事業につき、形式的に法律上の権利を主張することは、権利の濫用であり、本訴請求はこの点からも全部棄却さるべきである。

二  右に対する被控訴人の主張

被控訴人は、商号の類似により現に誤認混同による損害を受けており、今後もその虞があるのであるから、営業規模が異なることをもつて、右損害の発生等を否定することはできず、また、被控訴人の営業は、職業安定法に違反するものではないから、控訴人の権利濫用の主張は、いずれにしても失当である。

三  証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も、被控訴人の請求を正当として認容すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり、追加、訂正するほかは、原判決理由欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一  原判決一七枚目表最終行(編注、一三巻一号一五頁一三行目)に「(プレジデント」」とあるのを「「プレジデント」」と訂正する。

二  同一九枚目裏八行目(同上、一七頁五行目)に「し得るのであつて」とあるのを「することができ、また一方、「マンパワー」の部分のみでは営業主体を個別化する機能を果しえないとみるべき理由もないのであつて」と訂正する。

三  同二〇枚目表三行目(同上、一七頁八行目)に「し得ること」とあるのを「できること及び「ウーマン・パワー」の部分のみでも営業主体を個別化しうるとみられること」と訂正する。

四  同二〇枚目裏二行目(同上、一七頁一三行目)の「同各号証」から同四行目(同上、一七頁一四行目)の「文字」までを「同各号証に被告みずから「ウーマンパワーの専門職集団」という「ウーマンパワー」の文字が控訴人自体の略称ないし通称であることを示すとも解される文言」と訂正する。

五  同二五枚目表七行目(同上、二〇頁末行)に「事情は」とあるのを「事情を和解条項の文言の趣旨に反するような意味合いで」と訂正する。

六  控訴人の当審における主張に対する判断として、次のとおり追加する。

「控訴人は、控訴人の営業の規模が被控訴人のそれに比べて小さいので、控訴人の営業によつて被控訴人に営業上の損害を与えたこともなく与える虞もない旨主張するが、控訴人の営業規模が小さいからといつて必ずしも右の損害が生じないということはできず、右損害が生じ又は生ずる虞があることは前認定のとおりであるから、右損害が生じないことを前提とする控訴人の主張は採用できず、また、職業安定法違反の点についても、被控訴人における前記いわゆる事務処理の請負業が職業安定法違反の実体を有するものであることについてはこれを認めるに足る証拠はないから、この事実を前提とする控訴人の主張も採用できず、したがつて、控訴人の権利濫用の主張はいずれにしても失当といわざるをえない。」

以上によれば、被控訴人の請求を認容した原判決は正当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用は、民事訴訟法第八九条により控訴人の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判官 石澤健 楠賢二 杉山伸顕)

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